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【IR担当者向け】株価がディスカウントされる原因と対策<国内IR・海外IR別>

IR担当者が抱える株価ディスカウントの課題

「どうして弊社の株価は伸び悩んでいるのか?」

「うちの株価って、潜在的な価値が反映されていないのでは?」

 

米国ではトランプ政権が発足し、世界中の株式市場も動いています。「株価は市場が決めるもの」とも言われますが、市場の不透明感が増す中で、IR担当者に期待される役割も拡大中。情報開示に留まらず、投資家(国内外)との対話を円滑に進められる人材は引く手あまたです。

 

IR担当の方々は四半期ごとの決算業務などに追われながら、色々な課題を抱えています。本記事では株価がディスカウントされる(割り引かれる)原因と対策を探ってみましょう

 

対策の鍵は不透明感の解消です。IR担当者の役割には、投資家に自社を適切に理解してもらう取り組みが含まれます。 1つの目安として「投資家が貴社を誰かに説明できる状態」になっていれば、理解が相当進んでいます。 貴社の潜在・既存投資家は、貴社の情報を他者へ適切に説明できますか?本記事が適切な企業価値が株価に反映される一助になれば幸甚です。

 

株価がディスカウントされる3つの理由と対策

主な原因と対策を下記にまとめています。大半の上場企業で下記のいずれか、または複数が該当するのではないでしょうか。

 

 

株価がディスカウントされる原因

対策

フェアディスクロージャーが不十分

情報格差を解消(個人機関 / 国内海外)

今後の業績が不透明

詳細な開示と対話の促進

コングロマリットディスカウント

各事業に共通の軸・シナジーを解説

 

原因と対策:フェアディスクロージャーが不十分「情報格差を解消」

フェア・ディスクロージャー・ルールとは、未公表の重要情報を特定の第三者に提供した場合に、原則として同時に(意図的でない場合は速やかに)同内容を公表することを求めるルールです。

 

IR担当者の数は非常に限られています。限られた人数でフェアディスクロージャーを徹底するのは非現実的ですが、「全投資家が公平に情報を取得できているか」を常に意識する姿勢が大切です。その姿勢は、投資家に間違いなく伝わります。

 

情報を発信するIR担当者側でなく、情報を取得する投資家側の目線で捉えると、意外と改善点の多いポイントです。特に、個人投資家と海外投資家が不利な状況にある印象です。中小型株では流動性不足も大きなディスカウント要因ですが、フェアディスクロージャーを心がけて個人投資家への情報発信と対話を強化することも大切です。

 

下図は、投資家間の情報格差を示した一例です。

 

フェアディスクロージャーの質向上に向けて

 

当然ながら、IR担当者ほど開示企業を理解している外部の投資家はいません。IR担当者の役割は「自分たちの理解度に投資家を近づけること」かもしれません。それは無理難題ですが、「個人⇔機関」「国内⇔海外」の二軸で対策を考えてみましょう。

 

<国内IRの不均衡を解消:個人機関>

IR担当者のリソースは限られています。一方、投資家数は数千~数万名。機関投資家相手なら1 on 1ミーティングなどで対話できますが、個人投資家相手ではQ&Aに回答するので精一杯。対策として、個人投資家向けの説明会を増やしたり、機関投資家との対話内容をQ&A形式で開示したりする企業が増加しています。決算説明資料の開示が2Qと4Qに限られるのであれば、決算情報に絞った概要版を1Qと3Qで用意することも良いでしょう。

 

<海外IRの不均衡を解消:国内海外>(英文開示のスピード・品質・網羅性)

海外IRでフェアディスクロージャーを徹底できている企業は稀です。2025年4月1日以降はプライム企業を対象に決算情報の英文開示(同時開示)が義務化されますが、その対象は全体のごく一部。品質面でも、日本語の一文一文をそのままの語順で英訳しただけの英文資料が大半を占めています。相手に伝わってこその開示です。IR戦略を翻訳者と議論しながら英文資料を磨き上げれば、スピードも品質も格段に伸びます読むのが億劫になる英文で網羅性を高めても、株価の伸びは限定的です。

原因と対策②:今後の業績が不透明⇒「詳細な開示と対話の促進」

今後の業績が不透明⇒「詳細な開示と対話の促進」

一般に、投資家はファンダメンタルズなどの定量的情報を重視します。決算短信などに限定せず、投資判断に資する情報を積極的に開示する姿勢が大切です(非財務を含む)。業績が不透明な銘柄への投資は慎重になりがち。とりわけ、小型株や成長株に業績が不安定な銘柄が多く、流動性の不足も相まって、株価が伸び悩んでいるケースを一定数見かけます。

 

ある意味、「業績」はIR担当者の職責を越える経営の話ですが、IR担当者にできることも多々あります。例えば、業績予想をセグメント別や事業別でわかりやすく開示すれば不透明感を払拭しやすくなります。社内事情で詳細な開示に消極的なら、どの情報までは開示できるのかを議論する価値はあります。

 

数値にこだわりすぎて経営の自由度が下がっては本末転倒ですが、ファクトシート(ファクトブック)などで数値や指標別に日英併記で開示するなら問題ないかと思います。「ファクトシート 投資」などでGoogle検索すれば、数百社以上の実例が見つかります。

 

原因と対策:コングロマリットディスカウント「各事業に共通の軸・シナジーを解説」

一般に、手掛ける事業が増えるほど、外部からの「わかりにくさ」が増し、株価水準が各事業単体の企業価値合計よりも低くなります。

 

上場企業と投資家では、見ている投資の時間軸が異なります

 

時間軸

考え方

上場企業

永続的

事業を複数手掛けて、数十年先までの「存続性」を確保したい。利益が出ている以上、各事業を継続・発展させたい。

投資家

2~3年(5年以上の場合もあり)

各社には競争優位性の高い事業に絞って、高収益体制を確立してほしい。数十銘柄に分散投資しているので、投資期間中に利益を最大化させてもらえれば問題ない。

 

上場企業にとっては「永続的な経営」が必達目標ですが、投資家は「安く買って、高く売る」が基本です。いつかは、売る日が来ます。もちろん、一部の長期投資家は10年以上の投資軸で運用していますが、2~3年ほどを想定する機関投資家が多いのではないでしょうか。個人でも優待狙いなどで数十年保有するケースもありますが、短期投資の方も多く見られます。

 

東証が公表した「資本コストや株価を意識した経営」の影響で、上場企業への圧力が強まっており、ROICなどの指標で資本コストを厳格に管理する企業も増えていますね。

 

たしかに、投資家にとっては、利益率の高い事業に絞れば短期的な株価上昇を見込めますが、意外と各事業に補完関係があったりします。単純な資本コストでは割り切れないのが企業経営。各事業に共通の軸があって、見えないところでシナジーが働いているケースも多いでしょう。

 

投資家だって、投資先の業績が乱高下することは望んでいません。複数の事業を手掛けることで安定収益を獲得できれていれば、株式市場での評価(PERなど)も高く、安心して保有しやすいです。とはいえ、手掛ける事業が多岐にわたれば、その銘柄をフォローするコストはかさみます。「よくわからない銘柄」になれば、ディスカウント(割り引いて)投資せざるを得ません。各事業がなぜ重要なのかを明確に数値で説明し、理解を得る努力が大切です。

 

まとめ

本記事では株価がディスカウントされる主な原因と対策を3つご説明しました。おそらく、どの上場企業も今回説明した3項目のうち、一つまたは複数に該当するはずです。逆に言えば、的確な対策を講じれば、歩みは遅くとも改善はできます。

 

IR担当者は投資家に自社の経営状況を「説明」しますが、その投資家が他者へ貴社を「説明」できるほどに理解は進んでいますか?その状態なら、自然と株価のディスカウントも解消されているでしょう。本記事が現状を再認識し、今後の方向性を考えるきっかけになれば嬉しい限りです。

 

弊社の英文開示支援サービスは、「翻訳」と「IRコンサルティング」を一気通貫で支援できる体制が特長です。翻訳者と一緒にIR戦略を練りながら、英文資料をより洗練させるお手伝いしております。海外IRや英文開示に留まらず、国内IRについてもご支援しております。ぜひお気軽にご相談ください。

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